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2017/08/26

詰将棋鑑賞、超入門!(3前)変化紛れ

※「鑑賞は初めてだなあ」という方向けの記事です。
※本記事は特に初めての方向けです。

 今回は変化・紛れの概念とそれが鑑賞にどう影響してくるかについてです。
まず用語の解説。
(以下 80年代ショート詰将棋ベスト200 詰将棋用語集より引用)

[変化]作意以外の玉方の応手により生じる手順。これが詰まない作は不詰である。
[紛れ]作意以外の攻方の着手により生じる手順。これが詰む作は余詰である。

※作意=作者が意図する正解手順。



 もう少し詳しく説明すると、受方は応手の分枝の中で一番長い手数生き延びることができる手順(=作意順)を選ばないといけないというルールがあり、その作意順と明確に区別できる(作意より短く詰むor同手数ながらも攻方駒が余る)分枝を「変化」と呼び、区別がつかない(同手数でしかも駒が余らない)分枝を変同(=変化同手数)と呼びます。変化を答えても正解にはなりませんが、変同を答えたら正解扱いになります。

 堅苦しい用語だけではピンとこないですし、実例で示します。

古作物

2017-08-26a.png

(A)23銀打、(イ)13玉、12銀成、(ロ)同玉、23金 まで5手詰

 紛れ記載に該当するところにA,B,C
 変化記載に該当するところにイロハ…とつけるのが一般的な記載法です。

■変化
(イ)2手目31玉という手もありますが、これは32金までで最長の5手詰より短く詰みます。こちらの手順でも詰んでいるものの、こちらの手順を答えても正答とは言えません。
(ロ)4手目同香も23金まで。24玉には25金まで。
 これらの手順は作意と同じ5手詰で、攻方駒も余っていません。ですのでこれは変化同手数。この順を答えても正解となります。

■紛れ
(A)初手23金は31玉とされ、32銀と頑張っても42玉と逃げられ詰みません。

 お察しの通り、変化紛れは書こうと思えばいくらでも書けますし、全部記載するととんでもないことになります。ですので、詰将棋本では全部の変化紛れが記載されることはなく、必要なものに絞って記載されています。
 
 変同に関してはまた別の機会に話します。



 概念の説明が終わったところで、さてここからは鑑賞論です。
 
 まずざっくりした問いを立てましょう。
Q「詰将棋は変化・紛れが多いほうが難しくなるか?」
 答えはYESです。多岐にわたる変化紛れがあれば作意を見つけるのが難しくなりますし、その枝のそれぞれが深い(≒長い手数を読まないといけない)ほうが読みの作業が大変になります。

Q「詰将棋は変化・紛れが多いほうが良いか?」
 変化紛れが多いほうが情報量が増えるのですから、なんとなくYESっぽそうですよね?
 しかしこれは作品によるとしか言いようがありません。
 『あまりにさっくり解けすぎるのは良くないから、適度な変化紛れは必要。しかしあまり煩雑になりすぎるのも良くない…。』というのが無難な回答で、大体の作品の評価に使える考え方なのですが、「さっくり解けすぎることを売りにしている作品」、「殺人的な難しさで評価された作品」というのも登場しているので必ずしも全ての作品を一括りに考えることができないのです。


 詰将棋の評価法で、よく「難しければ難しいほどいい作品なのか」という疑問を耳にしますが、詰将棋作品は難しさを最重要課題として作られているわけではないことは是非覚えて帰ってほしいです。むしろ最近では夾雑物を廃したシンプルな仕上げ(変化紛れが平易になりやすい)が好まれるようになっているぐらいです。
 難しさはプラス要素にもなれば、マイナス要素にもなりうるものです。その作品が(ざっくり二項対立にしてしまうならば)重厚なほうがいいのか、さらりと流れるように味わうべきなのか、そのアトモスフィアを感じ取った上で、難解性がプラスに働くかどうかしっかりと吟味しないといけないのです。 



 ところで、最近SNSで最も短手数の看寿賞受賞作品が紹介されていましたね。



 ご存知の方も多いでしょう。
 これほどの誤解者を出した3手詰ということは、最難解の3手詰とも言えるのでしょうが、変化、紛れの多さという意味の難しさで考えるとどうでしょう?実はそんなに多くないのです。
 初手は香を開くぐらいしかありませんし、その開き場所全ての場合を読んだとしてもたかが知れています(このことは本作の評価にプラスに働いていると私は思います。フォーカスが絞られているからこそ、作意順に登場する香限定移動が目に焼き付き、強く印象に残るのです)。
 全部を読めば誰もが正解順にたどり着いた。しかしそうならなかったということは、詰んでいない順を詰んでいると錯覚したということになります。

 おそらく多くの方はこう回答したのでしょう。
 
 73香成、(イ)97龍、74龍まで???
 (イ)54玉も56龍で詰んでいる。どう応じても詰んでいるようにしか見えない。だからこの順が正解としか思えない。

 しかしこの73香成に対しては妙防がありました。86歩!
 74地点には龍の利きが残っているので74龍ともできず、86同角しかありませんが、54玉、56龍に98龍!と根元の角を取られてひっくり返ります。
 
よって本作の正解順を記載するとこうなります。

 72香成!、97龍、73龍まで3手詰

 こうすれば86歩合とされても構わず73龍とできます(変同ですのでこちらの順を答えても正解とは思いますが、変同のなかでも終形が最もさっぱりしているもののほうを選ぶのが見栄えが良く好まれます)

 作意のようにみえて実は詰まないという順を「偽作意」と呼びます。
 本作の73香成が偽作意として働くためには、
・本当の作意である72香成より有力に見えて
・逃れ順である86歩合が見落とされる

 少なくともこの2項目が必要です。

 そういう意味では、解図されるまでこの作品の真価は分かりません。そして、この偽作意がきっちりと仕事したからこそ記録的な誤解者が出る結果となりました。
 確かに本作は難しいかもしれない。しかしその難しさは圧倒的な読みの情報量を要求する「数の暴力」によるものではなく、人間の心理に大きく依存している。この2つの難しさは、口にする用語は一緒であっても全く異質のものであります。

 もっと言えば、正解順が偽作意のかなり近傍にあったことも評価を語る上で見逃せない要因と考えられます。
 この「偽作意モノ」というジャンル、一般的に言えばあまり評価が伸びません。期待を裏切られるような感じが強いからです。偽作意順をより精密にしたいがために肝心の作意順が見劣りしてしまうのはよくある話。こういう作品には厳しい評価が待っています 
 偽作意モノの作意には偽物以上の魅力が必要です。しかもその上で偽作意の陰に隠れていないといけないのですからこれが本当に大変。予想を裏切りながら期待を裏切らない(←これ自分の口癖です笑)「うまい偽作意もの」の創作難度は想像を絶するものがあります。

 『73ではなく72。こんな近くに正解があったのか。しかし、この一路の違いに気付けない。近くて遠かった…。』と感じられるような視覚的インパクトがあったからこそ、誤解者も晴れやかな気持ちで本作に向かい合うことができたのではないか。
 
※本作発表当時、私はまだ生まれてなかったので上の持論はすべて推測です。

 本作の変化紛れは詰パラに載るような超短編作品群と比べ、際立って多いわけではありません。むしろ少ないぐらいかも。しかし紛れ順の歩中合が巧妙で鮮やかだった。つまり上質なものでした。
 確かに本作は記録的な誤解者数を残しました。しかし、その数字でもってのみ本作は評価され、受賞したわけではない。これが本記事で最も言いたかったことです。



 今回は変化紛れの話のなかでも難しさについての話に終始してしまいました。
 次は変化紛れの内容がどう作品鑑賞に関わってくるか?について話したいと思います(こっちのほうが重要かもね)。
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